ひと粒の完熟の向こうに、育てる人の朝がある。
六月の平久保。ビニールハウスの中は、すでに夏だ。
緑の葉のあいだに、ひとつ、またひとつと赤い灯りが灯る。
スーパーに並ぶ一個の裏側に、どれだけの花と、
どれだけの待つ時間があるのかを、
この島の農家は、知っている。
Words & Photography — NORTH END Editorial / Location — Hirakubo, Ishigaki North
春、ハウスいっぱいに咲くマンゴーの花。けれど、ここに咲いた花のほとんどは実にならない。一本の枝に残すのは、ほんのいくつか。良い実だけに養分を集めるために、農家は咲いたそばから、選び、落としていく。甘さは、引き算からはじまる。
実が大きくなると、その重さで枝が折れないよう、一果ずつネットで吊るしていく。完熟したマンゴーは、自分から枝を離れて落ちる——その瞬間を、この袋がそっと受けとめる。木の上で熟しきった「完熟落果」だけが、島マンゴーの甘さの正体だ。
うちのマンゴーは、甘さを足してるんやないんです。この島の太陽を、ただ閉じこめてるだけ。
大浜 健司 / 大浜マンゴー園 三代目・平久保
Kenji Ohama — third-generation mango grower, Hirakubo
ずっしりと手に乗る、完熟のアップルマンゴー。表面にうっすら浮く白い粉(ブルーム)は、新鮮さの証し。収穫は早朝、気温が上がる前に。もいだ実は、その日のうちに選果場へ運ばれ、ひとつひとつ人の目で選ばれていく。
切り分けると、果肉はとろけるほどに濃い橙色。繊維が少なく、口にいれた瞬間に蜜のような甘さと、かすかな酸が追いかけてくる。冷やして、花のように賽の目に。何もかけなくていい。これがいちばん、この島に近い食べ方です。
大浜さんの畑では、収穫期になると島の家族や移住者が手伝いに集まる。子どもが走り、誰かが採れたてを差し入れる。山を背にしたこの一枚の風景こそ、NORTH END が大切にしている「共創」のかたち。マンゴーは、人と人をつなぐ口実でもある。